食事中のむせ込み、夜間咳嗽、突然の発熱に対し滋陰降火湯が有用であった2症例
症例2:92歳、男性。
主訴:発熱、咳
既往歴:高血圧症(発症年不詳、加療中)
大腸癌(2000年3月手術、近隣総合病院外科で経過観察中)
嚥下性肺炎(2008年6月発症)
現病歴:伊豆地方で単身生活をしていたが、嚥下性肺炎で入院したのを機に、08年夏、当院から少し距離のある娘宅へ引き取られた。同年8月26日、咳と 37℃台の発熱を主訴に、当院通院中の娘に付き添われて来院した。理学的所見、胸部X線写真に異常はなかったが、血液検査上、白血球数 12,500/μL、CRPは2.82mg/dLであった。抗菌薬のトスフロキサシン150mg 2T/2x 4日間の服用で症状は消失した。同様の咳、発熱が同10月6日、11月5日にもみられ、後者では白血球数は12,200/μLに上昇していたが、CRPは 0.26mg/dLにとどまった。いずれの場合も抗菌薬治療で発症から数時間内で対応できたため容易に治癒したと考え、抗菌薬を常備薬とし、咳と発熱がみ られたときは、ただちに服用してもらうことにした。すると、抗菌薬の処方が11月12日、28日と相次いだため、同日に滋陰降火湯7.5g/日分3 を処方した。その後、09年1月9日、20日と抗菌薬が処方されたが、娘によると、発熱があったためか本人の安心のためかは不明で、その後の処方は3月 11日、5月8日、5月26日、7月3日と抗菌薬の処方間隔は延長されていった。09年中に明らかに咳と発熱を目標に抗菌薬を服用したのは4月末からの4 日間のみで、患者は服薬と発熱との関係が理解できず、漢方薬を休薬する、あるいは体調不良を理由にトスフロキサシンを服用することもあったという。また娘 は、しばしばみられていた夜間咳嗽が滋陰降火湯服用中に消失することに同年5月頃気がついたとのことであった。その後滋陰降火湯の服用が習慣化し、現在 (2010年2月)に至るまで、発熱をみていない(図2)。

     
考察