食事中のむせ込み、夜間咳嗽、突然の発熱に対し滋陰降火湯が有用であった2症例
論文要旨
誤嚥による肺炎は従来から高齢者の死にとって重要な要因の1つである。誤嚥には食事中にみられる顕性誤嚥や、夜間に生じやすい不顕性誤嚥がある。その防止 策としてさまざまな治療薬が検討されてきたが、咳に用いられる漢方薬である滋陰降火湯に関する報告はない。筆者は最近、滋陰降火湯(TJ-93)が誤嚥防 止に有用と考えられる2症例を経験したので報告する。
キーワード
滋陰降火湯  誤嚥  嚥下性肺炎  咳  むせ込み
はじめに高齢者の死因の中で、肺炎は依然として大きな位置を占めている。その原因として、誤嚥が重要であることも周知の通りである。誤嚥性肺炎は食事中に みられる顕性誤嚥や、しばしば夜間にみられる不顕性誤嚥によって起こり、重症化しやすく死亡率も高いとされる1)。
高齢者では嚥下機能や咳反射が低下するとされ2)、これまでに、ACE阻害薬、カプサイシン、半夏厚朴湯等がそれを改善する薬物として嚥下性肺炎防止効果が報告されている1)。
筆者は今回、咳を保険適応とする滋陰降火湯(TJ-93)の投与により食事中のむせ込み、夜間咳嗽が著しく減少した症例、白血球増多と咳を伴う発熱がみられなくなった症例を経験したので報告する。
   

 

症例1:86歳、女性。
主訴:食事中のむせ込み、夜間咳嗽
既往歴:糖尿病(発症年不詳、加療中)
高血圧症(発症年不詳、加療中)
高脂血症(発症年不詳、加療中)
脳梗塞・左片麻痺・てんかん(2002年1月発症)
  症例2:92歳、男性。
主訴:発熱、咳
既往歴:高血圧症(発症年不詳、加療中)
大腸癌(2000年3月手術、近隣総合病院外科で経過観察中)
嚥下性肺炎(2008年6月発症)
     
考察